日立国際大道芸

2007年5月     ひょうたん グループ提供

 2007年5月12日、13日、日立および常陸多賀で「ひたち国際大道芸」が開催された。当日は天候にも恵まれ、いつもシャッター街と化している商店街が、子供の歓声と活気であふれた。来日アーティストの中で特筆すべきは、やはり「中国雑技団」であろう。ムチで長距離から新聞紙を破くという導入から、今年は女性的な美しさも加味され、女性パフォーマー二名のローラースケートによるフィギュアスケートのような雑技はこの団体のアクロバティックなイメージとはかけはなれ斬新であった。そして黒山の人だかりとなったのが昨年二回世界チャンピオンとなった男性パフォーマーの演技である。高い段の上に四本のガラス瓶がおかれ、そのうえに五段十段と積み重ねられていく椅子。その上での倒立。頂点で椅子を斜めにしての開脚倒立。命がけの演技に観客が息を飲んだ。「もっと拍手くれなきゃやらないよ」といった絶妙のタメをみせる余裕もあり、緊張感の中に笑いを誘う完璧な演技であった。

  フランスから来日した、「シルクバロック」の空中ブランコ演技も日立市民が待ちわびていたものである。にぎやかなブラスバンド演奏、親父・美女・やさ男の3人による寸劇。そして優男が急に天才的空中ブランコのりにキャラクターが豹変し、二本のひもを腕に巻きつけながら天たかく昇って繰り広げる緊張感あふれるアクロバット、その展開にメリハリとストーリー性があり、今から次回の再来日が楽しみである。ウォーキングアクトの中で人気を集めていたのがフランスから来日のの「ダークラクー」である。

 金色の仮面、金色のボディーにながい棒の手足をつけた巨人は子供達に恐怖をよびおこした。手の先についたかぎづめに帽子をひっかけキャンディーを配るそぶりをし、子供達が寄ってくると元の野獣キャラにもどって観衆を追い払い、三十分間の無言の演技で少年の恥じらいを見せたり、静止して彫像のようになったり、生き生きと動き回ったりして見とれているうちにあっという間に時間が過ぎてしまった。このパフォーマーは演技中のイメージを壊さないことに心を砕いているらしく、講演終了後ふつうの人間の姿で衣装を小脇に抱え、目立たないように小走りに人のいないところをすりぬけて移動していく姿を偶然見かけて、そのいじらしさがかえって笑いを誘った。

 国際交流という観点からこのイベントを見たときに、もっともプロらしいのがイギリス人と日本人のコンビである「ファニーボーンズ」である。事務所と主催者側の大人の事情なのか、このパフォーマーはいつも立地が悪い。日立では毎年もっともマイナーな「うえのうち公園」において演技を行っているがマニアックなファンが大勢いて開演時間をすぎてから続々と人が集まってきた。とにかくなんでもありのこのコンビは小道具を使ったパントマイム、帽子やスプーンを使った手品、単純に足でひっかけた帽子を空中で頭にひっかけ失敗したときは「太陽のせい、人のせい」である。手品もすべて観客を驚かせた後にネタばれまでしてわらいをさそっていた。

 

  命がけのナイフとりんごをかじりながらのジャリングもあった。この二名はアドリブでやっているライバル同志というイメージが強い。「ビデオとるのもいいけど、大道芸はやってる瞬間が命だからちゃんとみてほしい」「拍手と、うぉーっていうタイミングが違う、遅い!何年観客やってるの?」といったアピールもあり、投げ銭の風習も含めてノリの悪い日本人の観客の成長を要求するレベルの高い演技であった。このチームの定番である「東京ゾンビーズ」のパペットプレイはもっと大勢の観客を集めるに値するものである。

 一方で毎年マンネリで食傷気味なのが日本人の「八ッピィ吉沢」(ラジオ体操などにのせたパントマイム」)「サンキュー手塚」(日本の流行歌に乗せたパフォーマンス)「加納真美」(汚いジャージでもてない女を演じる自虐ネタ)の3人。同じ事務所の所属のベテランであるが、日本人の内輪受けの域を出ないのに配置が異様に良いことに不公平感を感じた。

 朝日新聞茨城版に写真の載ったラッキーな日本人パフォーマーが「トムらっはい」。「つなわたりをする」と宣言してツナ缶のの上を歩くというボケを見せ、最後に観客二人に持たせたロープの上をあるくという技で拍手をあびていた。
 

 外国からきたパフォーマーで陽気なキャラクターに好感が持てたのがオランダから来日の「ピーターポスト」。二度目の来日でトリックやマジックを多彩に披露していたが失敗するとやけくそになって小道具をなんでもかんでも投げ散らかし、それを日本人の運営スタッフが慌てて拾ってまわるという「壊れ方」が笑えた。最後には紙を見ながら日本語で挨拶するという努力家の一面も見せ、今後の成長が楽しみである。

 ドイツ、スイスからの男女ペア「トレスパス」はエキゾチックでムードのある音楽にのせて華麗なダンスとアクロバットを披露した。イギリスから来日の「チポタラス」はアコーディオンの音色にのせてのジャグリングで、正統派の大道芸を演じていた。フランスから来日の「バンパブリック」はダンスが中心でビジュアルに美しかった。

 

 日本の伝統文化として屋台で終日昔懐かしき飴細工を作っていたのが「川西銀二」。富山県からやってきたこの大道芸人は飴細工の販売をしながら時折実演を交え、鳥やアニメキャラクターの人形を作っていた。現在飴細工で大道芸をやっているのは5人ほどに減ってしまっているとのコメントを聞いた。日立では大道芸以外にもクリスマスイベントに参加している女性日本人ダンサー「バーバラ村田」片手に男性の人形を抱いてダンスやパントマイムを演じるが、何度見ても人形が実物のダンディーな男性にみえるのが不思議である。安定感のある演技であった。
 毎年出演しながら、地味で観客が抜けてしまうのが尺八の「紫竹芳之」、日本の伝統芸能の継承者としてもうすこし頑張りを期待したい。

 新規参入の「小春」(アコーディオン)「少子化対策」(ブラスバンド)若手の貝瀬大地(オーストラリア伝承のファイアーパフォーマンス)「Koji Koji Moheji(自作のバグパイプ曲に乗せてのジャグリング)、チカパン(ウクレレ、パントマイム)についてはまだ若く、観客とのコミニュケーション力でまだまだ未熟だが、すばらしいパワーを感じた。
 新人の「紙麻呂」は切り紙のあとその作品が空に浮くというまじめな演技であったが、後ろでつっている糸が丸見えで興ざめした。
 音楽に乗せて絵画を描く「ユキンコアキラ」、およびウォーキングアートの「un-pa」「ガンジスインダスドータス」「Shiva」「ロウミン」「メダマンメダマン」はなにをアートと解釈するかによって評価が分かれるが、会場をお祭りムード一色にするという重要な役割を担っていた。

 

これだけの大規模な大道芸を主催した「ひたち国際大道芸実行委員会」は大変な労力を費やしたのであろうことが伝わってきた。「投げ銭だけで夢を売る」という大道芸人の文化に日立市民がよき観衆になれるように文化的レベルアップできるよう、今後も大道芸のイベントを継続して欲しい。

 

戻る)   (トップページ

inserted by FC2 system