ひょうたんグループ提供(日立市)
 魅惑の男声合唱
「常磐ひたちメンネルコール」
 世に「お母さんコーラス」というのは多数存在しますが、「お父さんコーラス」というのも忘れてはいけません。全日本合唱連盟に所属している団体に限れば、茨城県には88の連盟登録合唱団がありますが、男声はわずかに3団体です。そしてその中のひとつが日立市を本拠地として、なおかつ20周年記念公演をおこなったと聞いて取材を敢行しました。
 

(1) 「常磐ひたちメンネルコール」の名称
 「メンネルコール」とはドイツ語で「男声合唱」を意味します。「常磐ひたち」はJR常磐線の沿線の住人で結成された日立市を拠点とする団体名称です。実際メンバーは土浦からいわきにかけての居住者です。

(2) メンネルコールの誕生秘話
 茨城県には「県芸術祭合唱演奏会」という歴史ある合唱公演があり、茨城県を10区画にわけてもちまわりで公演を行っています。そして、従来混声女声のみだった演奏会に
1992年の石岡大会に初めて男声合唱が登場しました。男声合唱の名曲中の名曲「月光とピエロ」を演目として出演者を募ったところ、筑波大生を含め100名以上の合唱団が集い、公演は大喝采を浴びました。その興奮と感激の余韻の中、1993年男声合唱組曲「わがふるき日のうた」を歌おうと55名のメンバーが集まりました。同年7月に先輩団体である「日立市民混声合唱団」のステージを借りて演奏、テレビ、朝日新聞に取り上げられるなど大きな反響を呼びました。
 1993年10月「常磐ひたちメンネルコール」の結団式が執り行われ約40名のメンバーで新生男声合唱団が日立に誕生しました。

(3) メンバーの構成
 現在のメンバーは47名。(正会員のみ)平均年齢は67.0歳です。70歳を超えるのが11名。体調不良などの退団もあり設立以来の団員は三割程度です。一方で若手(でも熟年)の加入もあり、会の勢力は維持していますが高齢化は大問題です。
 手をこまねいているわけではなく、神奈川(洋光台)の同じ悩みを抱える団体とコラボをこころみるなど、アイデアを絞っています。パートは第一テノール9、第二テノール12、バリトン11、バス15で、口コミであつまり、自然にいい数ごとにパートが分かれます。
 指揮者は結団以来、団員の佐川文雄氏(茨城県合唱連盟副理事長)です。日立では何団体も手がけている、その世界では知らない人のいないビックネームです。

(4) 選曲
 合唱団内に「技術委員」という役員会があり、団員へのアンケートをたたき台として曲を検討します。最終決定は佐川氏と、副指揮者の上田氏に権限がゆだねられています。
 2012年2月12日の20周年第7回では男声合唱組曲「雨」「おかあさんのばか」「吉田正名曲集」男声合唱のためのカンタータ「土の歌」、アンコールに「はるかなる友へ」を合唱しました。
 「雨」では四季折々の季節感のある雨の情景が浮かびました。大人数の迫力もいいですが、このような微妙で繊細な表現は、楽譜の理解と指揮者の力量が大きいのかもしれません。
 ダークダックスレパートリーでもあった「おかあさんのばか」では母を亡くした少女と父親の朗読をおりまぜた音楽劇の形式をとり、涙を誘いました。「吉田正名曲集」はアカペラの「異国の丘」で幕を開け、苦難に耐える男の心を大迫力で歌い上げました。「公園の手品師」では小道具を使って笑いをとる場面があり、照れくさそうな表情で「家に帰ったらいいお父さんなのだろうな」という雰囲気が良く出ていました。圧巻は「土の歌」です。「大地賛頌」で有名なこの組曲ですが、実は三年前まで男声合唱用の楽譜が存在しませんでした。それがようやく完成したのを機に練習をかさねたところ、偶然のタイミングで東日本大震災による原発事故放射能汚染が大問題となり、本来広島の原爆の被爆体験からうまれたこの組曲の世界に現実がおいついた形になりました。偶然以上のものを感じました。人智のおろかさに。アンコール「遥かなる友に」は団員、家族の結束を感じました。
 ちなみに舞台演出はオペラの演出を手がけているプロの岡田直子氏にお願いしています。団員にとって暗譜で二時間以上はかなりきつそうです。プログラム挿絵も団員です。

(5) アマチュアのプロ根性
 団員として大切なのは、毎回の練習に欠かさず参加すること、それによって音楽のレベルについていき、人との絆を大切にすることだといいます。歌う前にかならず30分間体操が必須となっていますメンネル流の呼吸法を50回。一日90回やる団員もいます。「顔面体操」もあり、応援団風に「おっす」と姿勢をただす体操ありです。腹筋と横隔膜を鍛えることで筋肉に柔軟性が生まれ、健康にも良いそうです。暗譜はボケ防止にもよいとか。

(6) 男声合唱、およびメンネルの魅力
 男声合唱では同質の声が響きあうためハーモニーにぶあつさと迫力があります。その陶酔感がたまらないようです。またさまざまな演奏会にでることで、一流の指揮者の指導がうけられること。また、歌詞の理解は勉強していくと人間的に幅を広げられるといいます。
 この会の特徴は「酒豪が多い」こと。幹部が演奏会や飲み会を仕掛ける形で、団員の「楽しいという気持ち」がまとまっているそうです。二年間をかけて曲をしあげるという「いぶし銀の魅力」もたまりません。

(7) 今後の目標
 「歌い、飲み、かつ歌い、若さをたもつ場としよう」という団長小林氏の、結団式での名言が、20年をへた今日まで生きているというのは素晴らしい初志貫徹です。「やれるところまでやろう」が合言葉です。高齢化対策、若手のレベルアップなど課題はありますがこの会の活力は敬服に値します。
 中国3回、韓国3回の遠征は中でも特筆すべきものです。釜山の東亜大学音楽部合唱団との交流では、シビックセンタでの公演の際ホームステイまで引きうける熱の入りようです。また中国遠征では交流の証としてコスモスの種を贈呈し、現地でTVニュース放映されました。
 公演は400名強の観客からスタートして今では毎回満員御礼。イベントでもマスコミにもひっぱりだこで枚挙にいとまがありません。
 ただ、今回、取材で私たちが一番感銘をうけたのは、この団体のよき「おとうさん」達のよき絆と音楽を愛する姿です。彼らにとって音楽とは「好き」の一言であり「生活の一部」であり、「楽しみ」「色々な経験」「勉強」「友情」である。だが感謝するのはみなただ一人、「男声合唱を理解し支えてくれた愛妻」であると言います。
 こんな暖かい人間関係の団体だからこそ、大所帯でも結束を維持できるのではないかと、感銘を受けました。
 
 
  連絡先
   常磐ひたちメンネルコール幹事長  野村精志     電話 0294(52)1944
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